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セッションIV(1月5日9:00−10:30)

症例検討−死にゆく患者とその家族への対応(インフォームド・コンセントを含む)。
〔症例7〕
インフォームド・コンセントの範囲
聖路加国際病院牛垢、北原、佐籐
●49歳、男性、AIDS、カリニ肺炎
経過
カリニ肺炎を発症し入院となった49歳の男性。入院時CO4は57であった。異性愛者間による感染。妻とは死別し独身。会社を経営しており、海外へ出張することが多かった。両親とは死別。兄、姉の3人兄弟。入院後主治医より、症状からみてAIDSの可能性があること、そのためHIV感染の有無を血液検査で調べたほうがよいであろうと本人へ説明され、検杳に承諾した。HIV陽性の告知も主治医から本人へされ、今後はカリニ肺炎およびAIDSに対する治療を行うことが説明された。患者は事実そのものを受け止め、感染症看護婦より、「将来的に家族のサポートが必要となってくるだろうから、誰か兄弟に病名を伝えたほうがよいでしょう」とアドバイスを受けた時は「そうですね。会社のことも考えなきゃいけないだろうし、兄弟にはタイミングをみて話そうと思う」と答え、将来的にはキーパーソンとして兄を考えているようであった。
その後10日間のうちに急速にカリニ肺炎が悪化し、ICUにて人工呼吸器が装着され、本人は意識のない状態となった。それまで家族には「重症肺炎」とのみ説明があったが、ICUにて足およびその妻に生命の危険が非常に高いこと、肺炎の原因はAIDSによるものだと説明され、兄より、姉の夫と会社の共同経営者であるB氏に病名が告げられた。家族より、少しでもコミュニケーションのとれる状態にしてほしい、一般病棟で最後を送らせたいという希望があり、ウィーニングが試みられたが、病状は改善せず、気管切開され、人工呼吸を接続した状態で約2ヵ月後病室へ戻ることとなった。簡単な呼びかけに対しYes,Noの意思を示せる時もあったが、意識がどの程度まで明瞭であるかは不明であり、まもなくCVAを併発し、意識レベルが低下、病棟へ移動して1ヵ月目に死亡。
この症例では本人の希望に沿った方法で他者に病名を告知することはできなかった。今回と異なり、意識の完全に回復した場合、周囲に既に、HIV陽性者であると伝えられたことを本人はどう感じるか完全に予想することは困難であるが、ショックを受けるとともに医療者に不信感を抱き、治療を継続して受けることができなくなるという問題が出てくることが考えられる。ICUに入る以前に、死の危険性が高く、意識のない状態に陥った場合、誰にどのように病名を伝えたいか患者自身の希望を聞き、話し合う機会を持てるとよかったと思われる。AIDS患者のターミナル期において、プライバシーの保証も治療方法の決定と同等に、患者の意志が十分反映されることが尊厳ある死を迎えるために重要なポイントとなってくると思われる。
守秘義務の厳密性
西立野 家族に話をするということに関して、どういうことをスタッフとしては心配なさったのですか。
発表者 やはりまだ日本ではこの病名を告知するに当たって家族のほうで受けるショックが非常に強いということと、あと偏見を持たれてしまうのではないか、患者から離れてしまうのではないかというのがいちばん不安でした。
西立野 実際は二番目の心配のほうはそれほどではなかったのですね。
−私も同じようなケースを抱えていまして、将来同じようなことが起きるように思います。

 

 

 

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